僕は漫画家でして、講座とかは得意ではありませんが、受講料無料ですから気楽に、楽しくやりましょう。
専門学校でも講座を持ったりしますが、受講料けっこう高いんですよ。学費年間百数十万円!だから、元取ってもらおうと、一生懸命準備して気負って話していると・・・・生徒は寝ちゃう。
<自己紹介>
最初に僕が描いている漫画の紹介をしましょう。
僕は「まんがホーム」とか「まんがタイム・ファミリー」というような雑誌に掲載される家庭的な四コマ漫画を中心に仕事をしています。このシリーズの漫画雑誌は日本の漫画雑誌の中では珍しく、性的な話題とか暴力的な表現を一切扱っておらず、家庭に持ち帰って子供の目に触れても悪影響を与えない内容になっています。
僕はこうした、おだやかなタッチの漫画家ですので、商業雑誌以外でもいろいろな仕事の依頼を受けることがあります。
例 えば「レッツ地方分権」「ホップ・ステップ・ジャンプ・地方分権」などもそうです。「やさしい地方分権」とか「みんなの地方分権」といったアニメーション・ビデオも制作いたしました。
特に、「ホップ・ステップ・ジャンプ・地方分権」は都道府県職員向けに全国知事会が発行したという、日本ならではのユニークな漫画冊子です。
<簡単な絵の実習>
漫画で大事なのはやはりキャラクターです。顔の特徴をどうつかむか、の簡単な実習をしてみましょう。
{顔のパターンを使った実習/年齢による顔の特徴・位置関係による印象の違いを実感してもらう}
僕の顔を描く作法は位置関係重視なんです。
デフォルメと省略は顔だけの話ではありません。
{マンションと自動車の図を使った実習/知っているはずで、意外に特徴を認識していない}
<港区芝浦港南文化センターでのマンガ似顔絵講座>
昨年秋、港区芝浦港南文化センターでマンガ似顔絵講座を開かせてもらいましたが、82歳のおじいちゃん、おばあちゃんがマンガに開眼されたのには驚きました。
大学生のお孫さんを主人公にした四コマ漫画を描かれたりしちゃうんですね。
秋のセンターのフリー・マーケットでは一般の来訪者に似顔絵プレゼントを敢行してしまいました。僕は描かずに、受講した生徒さんたちがお客さんに描いて差し上げる。腕試しの無料プレゼントですが。似顔絵プレゼントは、描く人、描かれる人の気持ちの相互交流という面があって、単純な漫画創作と違った楽しみがあります。
受講者のお一人に、斎藤さんという六十過ぎの男性がいらしたんですが、とりわけ絵がお上手じゃ・・・なくて。いつも、隠して絵を描いていたんですが、自分の自画像の表情集を描いたのをきっかけに、突然自信を持っちゃいまして。自分から、漫画を描きだしたんですね。斎藤さんは、最初「俳句に添える絵でも描ければ」とおっしゃってたんですが、新聞がお好きだったので四コマの時事漫画を描きだしちゃった。これには驚きました。八十過ぎののおじいちゃん、おばあちゃんもそうですが、人間いくつになっても変身するもんです。
<僕の変身の時>
僕の変身の時は1987年、もう39歳になろうという頃でした。プロレス漫画から家庭的な四コマ漫画へ転向して、その時からペンネームも現在の田代しんたろうにしました。芳文社のまんがタイム誌、古島まさお編集長の助言と指導があったからなんですが、2週間ほどの間に描く内容も絵柄もガラリと変えることができました。実は「サザエさん」とか家庭漫画なんて大嫌いだったんですよ。
そんな僕でしたが、「仕事」と割り切ることで、自分を変えることができました。
お陰様で、田代しんたろうの「使い勝手の良い」絵が生まれ、いろいろな分野の仕事をさせていただくことができるようになったのです。自分でも不思議です。
<僕が胸を張れるのは絵が下手なこと>
漫画誌にデビューしたのは、小山台高校に在学中です。「ガロ」という雑誌に入選して、初めて本に載せてもらいました。「ガロ」の長井勝一編集長の方針が、個性第一主義だったので採用されたのですが。
その後早稲田の漫画研究会で自由に好き勝手な漫画ばかり描いていたので、大学卒業後漫画で喰っていこうとした時は、苦労しました。絵が下手だったからです。
関西のテレビ番組で「ものしり館」という番組の仕事をしたのですが、なかなかプロデューサーの要求する「正しい絵」が描けずに困りました。まわりには、永沢まこと、中島潔、彦根のりお、倉橋達治といった現在有名なイラストレーターになっている方たちがたくさん居て、絵が下手な僕は肩身が狭かったものです。アニメーター出身の人たちは絵が達者なんですね。そういう先輩にいやいや絵のABCを教わりました。
素質がなくて苦労した分、今絵を教えられる、と言うこともできます。達者な人はわけがわからなくても上手に描けてしまう。でも本人はどうして上手く描けるのかは、わからない。僕は元が下手なので理詰めで勉強、補強した。だから感性的には決して良い絵ではないけれど、伝えたいことを伝える機能は備えている。そういう範囲での絵なら、僕は教えるのが上手いと自負しています。
<絵で何を伝えるか>
昨年から「eぎゃらりー川口」というホームページのまとめ役になりまして、芸術作品に接することが多くなりました。アートもいろいろです。おだやかな風景画だったり鉄材を溶接結合した造形作品だったりするんですが、なにかが心に伝わってくる作品とそうでない作品があるんですね。大きな展覧会で賞を取った画家さんの作品でもピンとこない作品もある。たくさん描いていらして、そこそこ上手なんですが、今一つ胸に響いてくるものがない。どうしてなのかと考えるのですが・・・、作者が本当に感動して描いているか、その感動を懸命に伝えようとしているかどうかが、問題だと思われます。今風に言えば「モチベーション」が高いかどうかです。
不思議なもので、良い絵を描くのは難しいが、良い絵かどうかを感じるのは、誰もができるんですね。
マンガの場合、絵もある程度大事ですが、それよりもストーリーだったり、四コマとかでしたらアイデアだったり、そういうコンテンツが重要になります。マンガの絵とアートの絵は違うと僕は思っています。アートの絵は筆致のすみずみに作家の感性がにじんだり、ほとばしったりする部分を鑑賞するのに対して、マンガの絵は内容を伝えるための手段という意味合いが強いのです。もちろん、登場人物のキャラクターとか絵の雰囲気とかで作品の色合いは変わりますが、大切なのは絵自体より、それによって伝える「お話」です。マンガには原作者付きがありますが、原作者付きのアートは考えられませんよね。そんなところにも、マンガとアートでの絵の役割の違いが表れています。
<僕のマンガ制作作法>
・四コマ漫画の制作プロセスを紹介
・イラストマップの制作プロセスを紹介
<日韓年賀はがき展から思うこと>
日韓の交流にもかかわっていまして、「日韓ユーモア漫画家年賀はがき展」の世話人をしていますが、よく聞かれる質問に「韓国にも年賀状はあるの?」というものがあります。
答えはNOで、クリスチャンの多い韓国ではクリスマス・カードが一般的で年賀状交換の習慣はありません。
特に、ハガキに自分で描いた絵を添えるなどというのは、日本人独特の習俗です。素人でも、みんなちょこっと絵を入れたりしますよね。年末になると、一億総イラストレーター化するという日本。プリントゴッコやパソコン・プリンター仕様の年賀はがきなどもそれに対応した産物ですね。
外国は市販のカードが普通で、絵は入っていても買って送るわけです。
絵手紙ブームなどもありましたが、日本には絵を描くことに慣れ親しんでいる特殊な文化土壌があります。
歴史をさかのぼれば、俳画・浮世絵・・・・といった話になるのでしょうか。日本の漫画やアニメーションは世界を席巻し、エンタテイメントを超えた優れた創作物になっています。
日本人はすべて大いなる素質を持ったイラストレーターなんです。海外でちょっと似顔絵でも描いてプレゼントすると、それほど上手くなくても大受けしますよ。
日本人の持つ潜在的な絵心を大いに発揮して、いろいろな場面でこれからも楽しんでいただければ、と思います。もしかしたら、皆さんも大変身されるかもしれませんよ。
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