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私の愛読書

舞田正達


 私は中国文学の一学究。判り易く言うと漢文の教師。なぜか、そう言われるのが厭。つむじ曲がりです。
 さて、年のせいか、この頃よく「愛読書は?」と聞かれるのですが、聞く方では、どうせ、お堅い論語・孟子などと答えるだろうと思っているのでしょうが、私は、さに非ず。ズバリ「徒然草」と答えます。
 徒然草は、皆さん、大学受験の参考書と思っているでしょうね。私も書店から頼まれて受験参考書を書いたこともありました。徒然なる侭に読む本を受験の神様と結びつけたところに、日本の教育のそもそもの誤りがあったのです。とんでもない。以来、日本の教育はダメ!
 「徒然草」こそ、今日のような乱世に読むべき随想なのですよ。
 彼は、ひどい寂しがりやでした。戦乱の世を避けて、高野の山中に入ったものの、寂しさに堪えられず、泣いて短歌を詠み、揚げ句の果てに、都近くの里に戻って来て、世の収まるのを待っていた。その間に書いたのが、この本です。切々として"乱れた世の生き方"を説いた。それ故に、この本は、ベスト・セラーになったのです。私は、今、「徒然草」を愛読しています。そのお陰で、この貧弱な小男が、九十四まで、執筆したりして楽しく生きているのです。
 一番好きな分引きます。全文、やさしいから、読んでみて!面白いですよ!一番面白いところは、結びの処。読んでみて。

 わが家の近くに大宮加茂川という堤があって、車も通さず、人も稀れ。この場所とそっくり。もし、私を尋ねて来て不在の時は、そこに来てみて。僕、そこでもの思いに耽るか、好きな詩歌を口ずさんでいるでしょう。哀れ!

(2003.9.11)


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