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ヘアドライヤ

深尾隆三

      ヘアドライヤ


ヘアドライヤをかけると

黄色い風が吹いて

ピアニカの音が聞こえた

音は一瞬つんざくように鳴って

じんわり広がって消えていった

メロディは確か 十人のインディアンが行進していく曲だ



どうやって入り込んだのだろう

そういえばこの間 ドライヤをかけたとき

ピアニカを吹いている女の子がいた

赤いカーペットの上にすわって白いジャンパーを着て

ほっぺたを一杯に膨らませて吹いていた



私がドライヤのスイッチを静かにスライドして

ゆっくりゆっくりOFFに戻したとき

あの子は思いきり頬を膨らませて

ひときわ大きい音色を奏でた



あの時だ きっと 音波がドライヤに吸い込まれたのは

あの後ピアニカからはもう音は出ないで

替わりに三原色の泡がシャボン玉のように吹き出ていた

赤、青、緑の泡は夜空に舞い上がり

大きな黄色い玉に吸い込まれていった



玉は一瞬真っ白に輝くと

ぱんと弾けて消え

あの子の姿も消えていた



そこまで思い出して私は そっとドライヤのスイッチを切った

かすかな期待を込めて

もう一度スイッチを入れてみると

ドライヤからは何の変哲もない温風が吹いてきて

やがてそれはじりじりする熱風にかわった


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