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赤岩千春さんが川口元郷駅出口近くにアトリエ兼教室を開いたのは、去年のことだ。
「Me-Mic Works」。MeはMetalからMicはceramicからとった。金属と陶器。赤岩さんは鋳金、相棒の荒谷和子さんが陶芸という役割分担は二人の創作活動をそのまま映している。荒谷さんとは東京芸大工芸科の同級生で、付き合いもずいぶん長い。
赤岩さんは川口に住み始めてもう十年になる。「斜陽の鋳物工場が沢山あるらしい」という話を耳にし、アトリエ・スペースを見つけようと、引っ越した。でも探してみると、なかなか思うような小さめの工場には巡り会えなかった。結局荒谷さんと二人で選んだのは築四十年の集合住宅の1階事務所、広さは十坪。とりあえず五年そこで制作に励んだ。でも、最上階の軒が崩壊するという事件に出くわし、撤退を決めた。近くの不動産屋で見つけた今回の物件は、二階建ての小規模工場用プレハブで広さも申し分なく、なんと言っても駅に近い。ここなら教室も開ける。
教室を始めるってのは、やはり大変だった。看板を作り、ポスターを貼り、ホームページもアップした。それでもなかなか反応が無いのでチラシをポスティングして回っている。JR線の東側はほとんど配り終わったので、そろそろ西側も回ろうと思っている。お陰で裏道も憶え、川口にちょっと詳しくなった。
鋳金もいろいろだが、赤岩さんが作るジュエリーは、蝋で原型を作りまわりを石膏型で固め中の蝋を溶かし出して型にする。つまり一つの原型から一つの作品しかできない。時間をかけて上出来の原型ができても「吹き」(溶かした金属を型に流し込むこと)に失敗するとオジャン。そういう賭けの要素もあるアートだけど、その一回性の緊張が好きだったりもする。
今年になって「ポスターを見て…」というメールが舞い込んできたりするようになった。と思ったら、突然、彫刻家の女の子が訪ねてきたり。川上香織さん。近くの「KAWAGUCHI
ART FACTORY」で鉄の彫刻を作っているという。ちょっと年下の川上さんは元気で可愛くて…なによりアートにかかわる仲間が近くにいることが確認できてうれしかった。川口もなかなかじゃん。
青山に出る時は元郷駅から地下鉄を利用する。青山には桃林堂という和菓子屋さんがあり、併設のギャラリーで展示をさせてもらったり、学生時代の仲間が展覧会を開くことも多い。今日もそこをのぞいてから、5月に仲間と展示会を開く、新宿パークタワーの「OZONE」に寄って帰ってきた。新宿からだったのでJRの川口駅で降りた。
川口駅から元郷駅までは、一本道。六間道路と呼ばれる道をまっすぐ歩き、ダイエーを過ぎると芝川を渡る。元郷駅周辺が整備され川幅より道幅が広くなって、橋らしくなくなったけど、「さくらばし」という名前が付いてる。公園の桜はまだだけど、川岸を見ると柳の枝に緑の芽が顔を出だしているのがわかった。ふーん、と見てたら、急に指輪のデザインが浮かんだ。頭の中でフォルムを確認した。出来上がりも想像した。シルバーがキラッと輝いた。
なんとなく、いい春になりそうな気がした。
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